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発行日=1997年5月19日 ソース=朝刊
面 名=1家  ページ=17
発行社=東京  文字数=1007   

ぼけ防止:5 「感動を得る暮らし」各自工夫して(現代養生訓)

 脳細胞が作る回路を増やし、老年期ならではの脳の働きの充実をめざすには、「魂を揺さぶる感動」が大切とお伝えした。
 感動の原因は、一人ひとり違う。家族や友人の談笑の輪の中で、しみじみと人生の幸せを実感したり、苦労して何かを仕上げた後、美しい花を眺めて、生きていてよかったと思ったりする。この種の深い感動や感慨は、生活背景や性格がからむ。従って「感動を得る暮らし」は自分で工夫して作るしかない。
 美に感じる人は、それがとっかかりになると、千葉康則・法大名誉教授が勧めた。絵画や手工芸、楽器や声楽など。好きな道なら、奥が深くて苦労が大きいほどよいそうだ。「苦労や失敗が感動の源です」
 趣味も入り口だ。心からやりたいと感じたものが、苦労を越えて感動に至る道になる。でも「やりたいものがない」人は困る。サラリーマンや主婦は、感動に浸らずに仕事を進めた方が効率的だから、感動無視の姿勢が身につきやすい。こういう人は、始めれば面白くなって熱中することもあるから、「とりあえず面白そうなものを積極的に試みたい」と千葉さん。
 よく左脳・右脳という。左脳は数字、言葉など論理的な意識的なもの、右脳は情緒や直感など非論理・無意識を受け持つとされる。ぼけ防止は、右脳の再開発とも言えよう。
 もっとも新福尚武・東京慈恵医大元教授は、単なる気晴らしや趣味は、本当の生きがいにならないと戒めた。心から打ち込んでいるか、時間つぶしに過ぎないかにもよるだろう。
 生きるとは結局、助け合いだ。これに気付いた人はボランティアもよい。「これをやるんだ」と深く思ったかが重要で、苦労も多いから、人まねや格好つけての奉仕は逆効果になりかねない。前回の伊能忠敬のように、やりたいことが結局、次の世代に役立つようなものが一番と千葉さんは言った。
 新福さんは「老いのめざめ」を目指せと言う。自分の心に心眼を注ぎ、底に潜む希望、悲哀、苦しみ、さびしさ、不安を見据えて、とらわれず、偏らずにその本質に目を開いてゆく。老いは喪失と崩壊の過程だと直視して、万般のかなしさの中から、機を得てめざめが来たりするという。
 長年蓄積した記憶が、こうした心のうごめきによって整理・体系化され、発酵して新たなものを生み出すという。脳の回路の増設に当たる。「ぼけ防止の目的だけでなく、こんな生き方を志向しないと、せっかくの『実りの老年期』がもったいない」と新福さんは言った。


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